痛み
1週間前に、天体望遠鏡の経緯台が、足の親指の先端に倒れてきました。
経緯台は、天体望遠鏡をのせる台です。
お恥ずかしながら、痛くて痛くて、こんな痛みが存在するのかと、驚きました。
痛みに関して、患者さんに10段階評価を主観的にしてもらうことがあるのですが、あの時の痛みは「9」です。
さらに想像を絶する痛みがある気がするので、「10」は使わずにおくことにします。
天体望遠鏡の経緯台は10㎏以上あるように感じたのですが、先ほど調べてみると5.7㎏でした。
5.7㎏の重みが足の親指の先端に、スピードをつけてピンポイントでかかるとあれぐらいの痛みなのだな、と今は冷静に思います。
麻酔をかけることがある骨折の中で、足(脚ではなく)の骨折は、特に術後に強い痛みを伴う印象があります。
足の部分は、受傷する年齢が比較的若い方が多いというのもあるのかもしれません。
ですので、足の部分の手術の際は、術後鎮痛(手術後の痛み止め)は他の骨折よりも強く効くようにすることが多いです。
わたしの場合、今回は指先で、たとえ骨にヒビが入っていたとしてもおそらく保存的に治療するだろうと整形外科の先生にも教えていただき、いま1週間たってようやく普通に歩けるようになりました。
整形外科の先生に聞く前に、自分でも「おそらく保存的に治療するだろう」と考えた理由として、「手術侵襲が加わった場合に、また同じ痛みに襲われる可能性があると考えると、手術を受けたくない」という気持ちもありました。
どういうことかというと、わたしは職業柄、患者さんの術後の痛みについては毎日のように考えますが、受傷する瞬間の痛みはスコトーマに存在しており知らなかったのだと思います。基本的に、手術室に入室以降、の痛みを毎日みているので、視野が狭くなりやすいと考えられます。
また、よく「麻酔科医は痛みに弱い」と言われることがあります。
おそらく、麻酔科医はふだん痛みを客観的に見るのに慣れているので、主観的な痛み(自分自身の痛み)がスコトーマになっている気がします。そのため、想像もしない痛みを感じた場合に、驚きが大きいのだと思います。
身体の強い痛みについては、みなさんにもできるだけ経験してもらいたくないですし、わたしもこれほど痛いのは耐え難いです。
ただ、今回の経験は、術後痛ではない強い痛みをスコトーマから出して認識することができた、という点で、良い経験をしたなと感じます。
ちなみに、左足の親指の爪は、真ん中に亀裂が入って割れていますが、すごいスピードで治癒しつつあります。
カフェを開きたい
先ほどのサラリーマン小学生の記事とつながるものを書きます。
最近、ある病院のある研修医が「いつかカフェを開いてのんびり暮らしたい」と言ったことが周りに波紋を広げました。
要するに、「研修医というのは医療というものに暑苦しいぐらいの情熱をもって、医療以外のことは考えてはならない」という‟常識”的な医師達が、「けしからん」と言っているわけです。
数か月にわたりその話を聞いているので、たぶんその研修医はこれから研修を受けていくにあたり、指導が浅かったり若干不利になる可能性があるかもしれないと考えています。
おそらくその研修医は、医師免許をとるまでさんざん競争の中で必死で勉強をしてきて、疲れてしまったのかなと思います。
まだその研修医と会っていないので、3つパターンを考えています。
①疲れてしまって一休みしたい。
②医師という職業はもともと自分自身の目標ではなく、本来の目標はカフェを開くことだった。
③研修医になって、医師という職業に疑問を感じ、とりあえずの目標としてカフェを開くことを考えている。
わたしの意見としては、カフェをやってみればいいと思います。
カフェを開いてみて、なんとなくそれも自分の目標と違っていたらその時に考えれば良いだけの話です。
しかもカフェをやりたいと考えながら医療をしても、want toでないのであれば患者にとっても危ないので医療をすべきではないと思うし、別の可能性として、両方したければ一度に両方できるのではないか(国公立の病院の常勤医になると難しいですが)と思います。
‟常識”的な意見としてよく聞くのが、例えば、「国立大学であれば医師育成に国民の税金を使っているのだから、早い段階で医師をやめるということは税金を払っている国民に還元できないのではないか。」というようなものです。
そんなことを言い始めると、自分の人生が他人にコントロールされた人生になってしまいます。
一回しかない自分の人生を本気で歩むためには、そんなこと、どうでも良いと思います。
そもそも税金は国の問題であり、一人の人間の人生を左右する理由にはならないと考えます。
もしもその研修医と会って話すことがあれば、かなり少数派の「カフェをやってみればいいと思う」という意見を言ってみようかなと思います。
Palm
もしかしたら、ご存知の方もいらっしゃるかも知れません。
埃がかぶってしまっていますが、写真は、わたしの使っていたPalm(パーム)です。たしかTXという機種だったと思います。
Palmは、Palm社が出したPDAそのものを指すこともあるし、Palm社以外の会社から出ているPalmのOSを搭載したPDA全般をPalmと呼ぶこともあります。
1996年に発売されてから様々な機種が出て、同時に多くの開発者が様々なアプリケーションを出していました。
スマートフォンの普及に伴い、PDA市場そのものが縮小、2009年にPalm OSデバイスの生産が終了しているようです。
わたしがこの機種を購入したのは2007年ごろだと記憶しています。
先輩達が持っているPalmがとてもかっこよく見えて、かなり思い切って買った気がします。
先輩達が持っていたのはソニーが出していたCLIEで、わたしもCLIEが欲しかったのですがすでに生産を終了しており手に入らなかった記憶があります。
Palmを持っていた方がいらっしゃれば分かると思うのですが、なんとも愛嬌のあるPDAで、捨てられずにいます。
久々に充電して使ってみたのですが、iPhoneに比べるとタッチパネルの精度もそれほど良くないし、速度もあまり早くないし、特別なにが良いかと聞かれると何とも言えないです。
わたしのPalmには医療系のアプリケーションが入っていて、薬の投与量を計算するためのソフトとか、薬の辞書や、医学大辞典など、いま考えてもアプリだけで何万円かかけて楽しんでいたなと思います。
一番使ったアプリケーションは「Palmacokinetics」というもので、Pharmacokinetics(薬物動態)シミュレーションを行うソフトウェアです。
このソフトで薬物動態のシミュレーションを見ることができるので、常にPalmを持ち歩いていて、薬物動態の推移を見ながら麻酔をかけていた記憶があります。
何か薬を投与するとすぐにそれを入力して、薬物動態の変化を見るという具合でした。
すっかり忘れかけていましたが、このころに薬物動態を見続けていたというのは、いまのわたしにとって大きな力になっている気がします。
また、スマートフォンがスタンダードになった今、Palmは必要ではなくなってしまいましたが、通話機能もないPalmは、純粋にわたしの趣味として楽しい時間をくれたように思います。
コーチングの側面から見たときに、当時は早く一人前(今でも一人前ではありませんが)の麻酔科医になることがゴールだったように思います。そして、目の前にある業務をとにかく真剣にこなしていたように思います。
「ゴール設定を一度したら、あとは淡々とすべきことを真剣にかつ楽しんでする」ということがコーチングに関連させると言えることかなと思います。
ホメオスタシスの同調
医師が自らの専門分野である疾患に、皮肉にも罹患する話を聞いたことが、何回かあります。
特別なことを考えなくても、確率論的に、十分起こりうることです。
今日考えていたのは、確率論で起きうる以上に、何かあるのではないかということです。
今日は苫米地英人博士の「洗脳護身術」を読んでいました。
その中の一文に、「ホメオスタシスが同調していれば、相手の病が自分に移行してくるのが普通だ。」というものがあります。
日本では医師はある専門分野をもっています。開業医の医師はさまざまな病気に対応しますが、通常はもともとの専門分野をお持ちです。
ある専門分野をもつということは、ある分野の疾患をもつ患者さんに毎日接することです。
患者さんと医師の間には、通常ラポールが築かれ、信頼関係ができます。
それが強い信頼関係で毎日のように接している場合、同調という現象が起こりうると考えます。
同調とは、例えば、女性二人が長い時間一緒にいると、整理周期が同じになってきます。
これはわたしも経験したことがありますし、女性の方は経験されたことがあるかもしれません。
その他、一緒に暮らしていると、心拍数や呼吸回数なども近いものになる、と書かれており、こういった現象を同調と呼びます。
患者さんと医師の間が密に接することで同調が起きた場合、疾患の情報が医師の情報空間へと流れてくる可能性があると考えます。
もしかしたら良い医師であればあるほど、同調することが多くなり、情報が流れこむ可能性が高まるかもしれません。
その結果として、自らの専門分野の疾患に罹患する、ということが起きるのかなと考えていました。
あまりコーチングとは関係のない話になってしまいましたが、ホメオスタシス(恒常性維持機能)という単語は、コーチングでよく用いる言葉です。
ホメオスタシスが如何に強力な力を持っているか、少しお伝えできるかなと思いました。
want to
今週のある日、わたしは9時から22時まで手術室の中で麻酔をかけていました。
「麻酔科医でないと分からない疲れ」が我々麻酔科医の仕事には存在します。
医師でない方々だけでなく、他科の医師にも理解してもらうのは難しいのではないかと思います。
同じ麻酔科医でも、ペインクリニックや緩和ケアをしている方が、「やはり麻酔は疲れるね」とおっしゃっていました。
列挙はしませんが、全身麻酔では患者さんの呼吸を止めるので、主にそれによって生じるのかなと考えています。
帰宅は深夜12時前でした。
でも不思議なもので、勤務中、早く帰りたいとか、しんどいとか、そういった感情は一切出てきませんでした。
わたしにとってwant toの仕事であり、この仕事が好きなのだなぁと感じます。
また、表現が難しいですが、わたしは職人なので、そもそもhave toになり得ないという感じもします。
当然コーチングも、わたしにとってwant toです。
今の生活でhave to(やらねばならない)のものは見つかりませんが、もっともっとwant toのものを遠慮なく増やしていこうと思います。
もちろん、みなさんにも、大切な人生をwant toでいっぱいにしていただきたいです。
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