そんなに急がなくてもいいのに
記事を読んでくださっている方の中に、全身麻酔を受けたことのある方がいらっしゃれば分かるかもしれませんが、全身麻酔の後は、しばらく意識がぼんやりしています。
手術が終わったあと、麻酔科医は全身麻酔の薬を止め、患者さんは目を覚まします。
そして麻酔科医は、患者さんが覚醒しているかどうか確認をします。
手術室で覚醒を確認するのですが、後から聞くと手術室で目が覚めたことは覚えていなくて、病室ではじめて目が覚めたと聞くことがあります。
ぼんやりしている程度や時間は、手術の大きさ(手術侵襲)や麻酔で使う薬にもよりますし、個人差も大きいです。
先日、麻酔から覚めたばかりの患者さんが発した言葉が印象に残りました。
80代の方で、ゆっくり、ゆっくり、穏やかに話す方でした。
そのときわたしは手術室スタッフに伝達事項を伝えていました。
スタッフに伝達事項を伝えるとき、わたしは早口です。
伝えようとすることと、伝えられるであろうことが、互いに予測できるからです。
その患者さんは、わたしたちにこのように仰いました。
「・・・みなさんの話している声が、・・・とても、とても、・・・速いように聞こえます。」
「・・・そんなに、急がなくても、いいのに・・・。」
わたしは思わず手を止めて、「本当に、そうですよね。急ぐ必要はないですよね。」と言って、目を閉じている患者さんを見ました。
わたしたち医療従事者は、患者さんの既往歴を把握しており、その方は、過去にとても大きな手術を受けられたことのある方でした。
手術を受けたことがあるかどうかではなく、これまで何度も、いろいろな覚悟を決めた瞬間があったのだろうなということが伝わってきました。
これまでの覚悟の“凄み”によって、その患者さんの、言葉で表現しつくせない深い穏やかさがあるのだと、そう感じました。
最近思うのですが、何かを覚悟したことのある人間は、強いです。
だから覚悟をする方が良いとか、そういうことでもなく、覚悟は、すべきときにするかどうか、それだけの話です。
また、何かを決めるときの判断の仕方は、個人の自由なので、どうあっても良いと思います。
ただ、何か重要なことを覚悟するということは、コーチングでいうゴールに向かう過程での出来事なのかもしれないという印象を受けています。
そこには、人間に秘められた強い”力“があるような気がします。
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