201705.19

“Bakery Scan”と曖昧さ

Post by 中西千華 2017年5月19日

昨日、勤務先に行く前にパン屋さんに寄ってパンを買いました。

そのパン屋さんは混んでいることが多く、以前行った時も並んで買いました。

そのパン屋さんのレジで、見たことのないレジが導入されており、びっくりしました。

わたしは初めて見たのですが、もしかしたらみなさんの中には御存知の方がいらっしゃるかもしれません。

調べたところ、“Bakery Scan”という名前の画像認識システムだということです。

日本の株式会社ブレインという会社が開発、製造販売しています。

これは昨日撮った写真です。

パンをトレーに載せてレジに持っていくと、トレーをカメラが撮影し、一瞬で合計金額が出ました。

数秒や数分ではなく、一瞬、です。

パンは袋などに入っておらず、パンの形状と色で商品を認識しているようです。

パンは似たような形のパンがたくさんありますし、色目もよく似ていることが多いです。

にもかかわらず、形や色における“曖昧さ”を瞬時に認識していることにびっくりしました。

パン屋さんの中には、あらかじめ袋にいれた状態のパンを並べているところもありますが、どうやらパンは袋にいれずにそのまま並べるほうがよく売れるようです。

こちらのお店でも、店頭に焼きたてを並べており、レジで一個ずつ紙袋に入れてくれます。

前に来た時は、レジ打ちに時間がかかり、さらに紙袋に入れるのに時間がかかり、行列になっていました。

今回はレジ打ちは一瞬でしたので、待ち時間は少し短縮されたのかもしれません。

けれどレジ打ちに余裕ができたからといって、店員さんと会話をするわけでもなく、商品を受け取ってお店を出ました。

・・・ここまで書いてきて、頭の中でいくつかのことを考えており、今回何について書こうか考えています。

考えていることのうち三つを挙げてみるので、みなさんも考えてみてください。

まず一つ目、Bakery Scanのようなシステムが、どのような状況で必要で、どのような状況で不要(むしろないほうが良い)か。

そして二つ目、このシステムはパンの曖昧さを認識できるようにプログラムされているわけですが、コンピュータの曖昧さの認識を人間と同じレベルにすることは可能か。

三つ目、わたしが住んでいる地域に野菜などを売っている小さなスーパーがあります。レジにはバーコードリーダーさえないのですが、店員さんの一人に、わたしの買い物カゴを見た瞬間に“合計金額”を言える人がいます。“Bakery Scan”と同じスピードです。その店員さんの認識方法はどのようであり、また、その人の目に世界はどのように映っているのか。

もしかしたら三つともさほど難しくないのかもしれません。

二つ目は、読む人によっては愚問に感じられるかもしれませんが、面白いのでこれについて考えてみます。

要は、人間には曖昧さを識別する能力がありますが、コンピュータが人間と同じレベルになるか、という質問です。

わたしはつい即答で「同じになる」と答えたくなりますが、では、さらに考えます。

(「同じになるわけがない」と考えた方も、本当に同じになり得ないのか、考えてみてください。)

果たして、わたしたちの気持ちの中に存在する曖昧さをコンピュータは認識できるのでしょうか。

果たして、例えば、麻酔という業務をコンピュータが完全に真似できるのでしょうか。

後者の麻酔については、コンピュータを否定したいわけではなく、麻酔科医が不要になるという話を数年前から聞くことがあるので本当にそうなのかずっと考えています。

もしも麻酔科医が不在でもコンピュータ管理のみで手術ができるのであれば、麻酔科医が不足している地域の問題を解決することができます。

あくまでもわたしの視点から、このことについて少し考えてみます。

わたしは麻酔科医の代わりとして、手術中に血圧が下がれば昇圧薬が点滴から入るような麻酔科医の仕事ができるシステムを作れば良い、という単純なものではないような気がしています。

麻酔科医はいろいろな情報を五感を使って感知し、情報を並列処理しています。そしてあらゆる可能性を想定しながら動いています。

患者とバイタルサインだけを見ているのではなく、術者のスピードや様子、出血した場合には院内に輸血の準備があるか、なければどこから何分で運んでくるのか、看護師はどのような様子か、など考えていることを挙げるときりがありません。

術中に血圧が低下したとすれば、昇圧薬を投与しながら原因を把握する必要があります。

麻酔の深さは適切か、術野で出血していないか、アレルギー反応は起きていないか、患者の年齢や基礎疾患はどのようか、など、これも挙げればきりがなく、原因によって対応が変わります。

そして万が一原因がはっきりと分からない状況であっても、患者を守るために次にすべきことを判断しなければならない時があります。

また、大量出血など非常事態において外科医である術者が慌ててしまっている場合に、たとえば輸血が到着するまで、状況によるものの術者にいったん手を止めて待つことを提案する必要が生じるときがあります。

今は手を止めるべきだという判断を、コンピュータが術者に伝えるのでしょうか。

もしもわたしが麻酔科医でなく外科医ならば、コンピュータの言うことなど聞かないと思います。

こうしてさまざまな状況を考えていくと、果たしてコンピュータが麻酔管理できるのか、やや難しい問題だと感じられると思います。

わたしはコンピュータに詳しくないのですが、なんとなく、コンピュータは「曖昧なものを曖昧なものとして」認識するのは難しいのかもしれないなと、感じます。

わたしたちは人間なので、基本的には「曖昧なものを曖昧なものとして」認識する能力があります。

すべてのことに白黒つけたい気持ちもとってもよく分かりますが、曖昧さがあるからこそ、悩んだり苦しんだり、逆に喜んだり楽しく感じることができるのかなと思います。

わたしたちが白と黒だけではない、グレー全段階をそのまま認識できるのは、実は、素晴らしいことです。

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